「QJKJQ」~江戸川乱歩賞のターニングポイント?~

久しぶりに読書感想。 (少しネタバレあり)
「QJKJQ」(佐藤究著)を読んだ。今年の乱歩賞受賞作。
このところ乱歩賞は毎年買って読んでいる。
だが、今年は、「一家全員が猟奇殺人鬼」という惹句を読み
引いてしまった。図書館で借りて読んだ。

著者は同じ出版社の群像新人文学賞優秀作を過去に受賞
されており、文章が巧い。手練れである。
凄惨な殺人の情景を口語体に近い語り口で、小気味よく綴ってゆく。
道具立ても凝っている。
惹句でシリアルキラーもの、或いは、快楽殺人ものかと
ワクワクして読み始めた人は、後半、期待外れと思うかもしれない。
私は逆。前半のグロテスクな描写に吐き気を覚え、耐え忍んだ。
後半の展開の方が面白かったが、その大部分が前半の説明に
なっており、もう一発、大逆転がラストに欲しかった。
この小説は推理小説というより、サイコホラーというような類。
著者が読者の推理を阻む。
選考委員も述べているが、
どこまでが現実で、どこからが妄想なのか不明だ。

冒頭の拷問シーンのような描写でTBS「MOZU」を思い出したが、
一連の事件の背後に何か、とてつもない企みか、シンジケートの
ような組織があることは想像できる。

シリアルキラーの遺伝子や殺人脳を研究する組織は実在すると
聞いた。国家的陰謀のために研究する機関もあるだろう。
だが、本書のラストで記されているように、殺人犯はきわめて
標準的な人間という結論は興覚めである。
父親が観察対象であったヒロインを抹殺しようとするなら分かるが、
父親が自殺するのはなぜか?その心理を書いて欲しかった。
この父親と娘の関係は一体なんであったのか・・

それにしても、動物虐待や、動物の死の描写が多かった。
とくに、「鳩ポン」の鳩殺しのセリフには嫌悪感を覚えた。
妙に生々しい。これは、著者の嗜好なのだろうか・・

「QJKJQ]は才能のあるプロ作家のミステリー作品である。
何も江戸川乱歩賞という冠をかぶせなくても、と思うのだが、
内容的に売れないと考え、冠をかぶせたとしたら、他の応募者に
対して失礼となろう。
確かに、乱歩賞だからと、読んでみた人は多いはずだ。
私もその一人である。(買わなかったけど・・)
乱歩賞でなければ、この手のものは読まなかっただろう。

「QJKJQ」は、江戸川乱歩賞の現実路線を塗り替えた。というより、
賞のすそ野を広げた。(元々、広義のミステリーが対象である)
それは、たぶん、近ごろの受賞作を読んでの推測だが、
現実路線に行き詰った流れがあるからだと思う。
一昨年の「闇に香る嘘」は視覚障碍者を主人公として、その独特の
感性を描き、さらには、中国残留孤児という現代史の大きなテーマ
に挑んだ意欲作だった。
だが、昨年の「道徳の時間」は、謎かけは巧いものの、肝心の謎とき
ができず、ミステリーの肝を外してしまった。
ただこの作品、関西弁の味わいということもあるが、主人公の匂い
が鮮やかに感じとれた。全体的に、シナリオに近いと思った。

受賞者に共通して言えることは、30代~40代半ばまでの男性で、
すでに何度か乱歩賞に応募して最終候補に残っている(つまり、
筆力、構想力に折り紙がついている)ことだ。
出版社は、受賞者が大化けして売れっ子作家になることを願っており、
その可能性のありそうな書き手を選ぶ。
乱歩賞に関しては、女性はよほど骨太の作品でないかぎり、圧倒的に
不利のようだ。一次予選通過者でも二桁いくか、いかないか・・
乱歩賞は女性読者を対象としていないらしい。

話は変わるが、今年から乱歩賞の選考委員となった湊かなえ氏の
「ユートピア」(山本周五郎賞受賞)を面白く読み、かつ感心した。
あまりミステリー風味を出さずに読ませ、最後に意外性を持って
ミステリーとして上手に着地している。

(m)
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

Book Review 「馬喰(ばくろう)」 松林要樹著

日本は、名馬といわれる競走馬を数多く輩出してきた。

記憶に新しいところでは、昨年の有馬記念で引退したオルフェーブル。

輝かしい記録を残し、種牡馬となった馬はしかし、競走馬のほんの一部にしか過ぎない。

勝てない馬、それ以前に競走馬には向かないと判断された馬、仔馬でさえも屠畜され

馬肉になっているという事実は、あまり表だって語られることはない。

競馬場の厩舎から、「乗馬」として姿を消す馬たち・・

そのすべてが乗馬になるわけではないという。

馬肉にされずとも、斃死、つまり病気で死んだり、レース中の事故で死ぬ馬たちも多い。

人と馬との関係の歴史は古い。農耕、戦争、ギャンブル・・

競馬好きの人々は名馬を讃美するが、レースに勝てず、

ひっそりと屠畜されていった大半の馬たちには思いを馳せるのだろうか・・

松林要樹氏の「馬喰(ばくろう)」は、大震災の原発事故により被災した相馬野馬追の

馬たちの複雑な状況を記録し、野馬追の実態についても触れ、

さらに、馬喰と言われる人たちのことや、屠畜の様子なども記している。


(著者あとがきより)

「馬を見つめることで私自身、人間とは何かを振り返るきっかけを作ることができた。

人間が、このような社会を築くに至るまでに、

どれだけの馬が戦争や労働現場で、人間に奴隷のようにこき使われ、

命を落としてきたのだろうか。

人間社会の発展は、馬の犠牲の上に成り立っている・・

この取材を始めるまで、この当たり前のことに無自覚だった。

私たちは、物言わぬ馬たちの犠牲の上に生きている。・・・」


今年は午年。馬ほど、人の欲望に翻弄される生き物はいないのではないだろうか。

馬が好きな方にはぜひ読んでいただきたい一冊。

馬喰馬喰
(2013/12/17)
松林 要樹

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(m)

テーマ : 動物愛護
ジャンル : ペット

Book Review 「共震」相場秀雄著

「震える牛」に続き、私にとっては二作目となる相場秀雄氏の著作。

本のオビにある通り、今回も「事件意外はノンフィクション」仕立て。
大震災の被災地を題材にするということは、それなりに込められた思いと道義が
求められるが、東北を舞台に作品を書いてきた著者だけに、気構えは充分といえる。

「震災を風化させたくない」
登場人物や著者が幾度となく口にする言葉。
この作品のメッセージは、この言葉に尽きるだろう。
実際、多くのページが被災地の状況や被災した人々について割かれ、
ミステリーとしての展開は作品の後半まで遅々として進まない。
被災された人々の心に寄り添いたいと願う著者の気持ちは伝わって来るが、
震災2年後と震災直後を頻繁に往来する複雑な構成は読者を振りまわす。

ネタバレになるので、あまり書けないが、作品のキーワードは「貧困ビジネス」。


(以下、文中より)

「前夜、東京の遊軍長から、一部のNPO法人が持つ裏の顔を聞かされた。
・・(略)<マル暴御用達のNPOがいくつもあるぞ・・そもそも、国が緩い
基準作ったから、抜け道だらけだ>・・(略)・・経理処理が一般の事業法人よりも格段に緩いため、
支出入金の管理が杜撰な法人がいくつもある・・」

(引用おわり)

震災直後、マスコミは、身内や友人を津波で亡くしながらも、懸命に耐え、粛々と
炊き出しの列に並ぶ地元民や、被災地へ通うボランティアの姿を
「これほどの被害に遭っても耐え忍ぶ人々」「善意のボランティア活動」として、
美談を撒き散らした。

しかし現実はどうだったのか・・。
福島では、原発事故で住民が避難した直後から空巣がはびこり、多くの商店
や民家は散々な被害にあった。
住民の一時帰宅の際、ある商店では、札を抜かれたレジスターが道端に放り出されていたという。
イノシシやネズミばかりが悪者あつかいで報道されるが、
人の不幸や弱みにつけ込む醜い連中のことは十分に報道されてきただろうか。

復興景気で風俗店が繁盛しているという事実もある。

膨大な復興予算と流用の問題。
願わくば、復興予算にたかる「シロアリ」の実態をさらに深くあぶり出して
欲しかった。

(オビの宣伝文句は前作より自嘲気味。「顔のない男」・・作品を最後の方まで
読み進んで、ようやく意味が分かりました)


参考:貧困ビジネス
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B2%A7%E5%9B%B0%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%8D%E3%82%B9




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8月中、長野県の山中に居り、ネット接続に問題があってブログをお休みしました。

今夏は3年ぶりにキツネに遭遇。たいそう痩せていました。
タヌキの親子にも出会いました。子ダヌキは草むらで遊んでいましたよ。

幸いクマには会いませんでしたが、クマ鈴は必携。

長野県では、今年もクマが民家の近くや果樹園に出没し、人身事故もあって、加害グマかどうか分からないまま、

捕殺されています。事故や農業被害を防ぐためにも、クマの専門家によるモニタリングや電気柵の設置などを

さらに進め、クマの無差別な捕殺を極力減らして欲しいものです。

今秋、山の実りはどうでしょうか。家の周りには例年なら、まだ緑色の栗がたくさん落ちていますが、

今年は見かけませんでした。たまに落ちていても、実の無い小さなイガばかり・・。


本日、9月1日より、改正された動物愛護管理法が施行されます。

(m)

テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

Book Review 野上ふさ子著「いのちに共感する生き方」

「いのちに共感する生き方~人も自然も動物も~」


動物愛護に携わる方々の間では「カリスマ」とさえ言われる「ALIVE」代表、故・野上ふさ子さんが

亡くなる直前まで執筆されていた自伝です。(「動物愛護」という言葉はお好きではなかったのでは・・?)


野上氏は、新潟県の旧家に生まれ、自然豊かな環境で、優しい母と倹約家の父、年の離れた兄たちと、

質素ながら、のびのびとした子供時代を過ごしたそうです。子供の頃から読書家で観察好き・・。

立命館大学哲学科に進学した当時は、大学紛争の盛んな時代。大学での学問に飽き足らず、中退し、北海道へ。

北海道ではアイヌの生活や文化を探求。北海道の自然環境が、ダムや道路開発などによって

壊されていく状況を目の当たりにし、反対運動に身を投じます。議員に立候補したことも・・。

新潟県の生家が、高速道路建設のために取り壊されたショックも大きかったでしょう。

その後も、日本のエコロジー活動の先駆者として、その流れの中で向き合ったのが、動物実験反対活動です。

1980年代、日本の動物実験の実態は、海外からもたびたび批判を受けていました。

実験犬シロの事件が新聞に取り上げられたこともあって、野上さんが事務局長を務めていた

「動物実験の廃止を求める会(JAVA)」は4千名を超える会員をもつ保護団体に成長。

そんな時に起きたのが、スタッフによる野上氏追放騒動です。

野上さんは著書の中で、「乗っ取り」という表現を使い、日本の市民運動の未熟さを指摘していますが、

スタッフの側から見ると、問題は野上さんによる会の私物化にあったようです。

野上さんは大学中退以降、ほぼ一貫してプロ活動家の道を歩んで来ました。

学生運動や住民運動が活発な時代でもあり、プロの活動家はアルバイトやカンパで生計を立てていました。

野上さんは、JAVA(当時)から月給30万円を得ていたとのこと(裁判資料より)。

(こうしたことは現在も多くの愛護団体で相通じるところですが、有償スタッフについては、会計報告などで

公表すべきであると考えます)

野上さんが、その後もJAVAの名を使い続けたため、JAVAは野上さんを訴え、野上さんは敗訴します。


そこで、新たに「地球生物会議~ALIVE」を結成。

野上さんが、あそこまでJAVAの名称に固執したのは、「この会は自分が作った」という自負心と

思い入れがあったからだと思います。野上さんの活動家としての経験や知識から見れば、

スタッフが未熟に見えたでしょうが、野上さんの方にも、無意識の驕りがあったのではないでしょうか。

しかし、新たな名称で再スタートしたことにより、動物実験の枠を越えて、活動分野は広がり、

ご本人も書かれていますが、モノは考えようというか、後になって振り返ってみると、マイナスが実はプラス

のきっかけであったことは誰の人生にもあるように思います。

野上さんは、そもそも著述家、研究者であると同時に活動家でもあり、ご本人は人との

コミュニケーションが不得手なタイプではなかったかと推測しますが(活動家には多いですね・・)、

活動するには組織が必要で、組織を支えるスタッフ(野上さんに協力してくれる人たち)が

必要となります。ショッキングな経験だったであろうJAVAの騒動を通して、

野上さんは、慎重に自分をサポートしてくれるスタッフを選んだことでしょう。

(以下、ALIVEのHPより抜粋)
http://www.alive-net.net/aboutus/sintaisei.html

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従来、当会の活動は野上前代表の頭の中にある活動方針の下、活動を展開してきておりました。

野上前代表が全方位的に当会の活動・運営方針を決定し、実行されてきたわけです。

今後は、共同代表制による合議制や多人数の活動スタッフをまとめていくことが必要になります。

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「ALIVE」さんには、これまでの野上代表の蓄積を糧に、今後は、スタッフの皆さまがそれぞれに力を

発揮され、新たなかたちで活動を盛り上げていっていただきたいと期待しております。

動物愛護管理法改正の検討小委員会などにおける野上氏の発言は貴重でした。

とくに、犬猫以外の動物、実験動物や畜産動物などに関する幅広い識見は他の委員を陵駕していました。

そういう意味でも、野上氏が抜けた穴は大きいです。


野上さんは作家でもあり、読みやすい文章で、興味深い自伝です。

とくに子供時代の頃のことは、とても面白く読みました。

いちかわともこさんの表紙の絵、すばらしいです。




「いのちに共感する生き方」・・・命への「共感」のあり方は、人さまざま、ですね・・。

(m)

テーマ : 動物愛護
ジャンル : ペット

Book Review「震える牛」相場英雄著

今年の2月ごろ、書店の店頭に山積みになっているのを見かけ、
図書館にアクセスしたところ、すでに100人を超える予約が入っており、
今ごろになってようやく読了。

「震える牛」という本のタイトルを見ただけで、話の中身が分かる方もいるそうですが、
私はぜんぜん気がつきませんでした・・というか、まったく忘れていました。

久しぶりに手にとった社会派ミステリー。
文章はゴツゴツとしていて読みにくく、人物描写も深みに欠けます。
著者は推理作家ではないためか、ミステリーとしてもいくつか瑕が見受けられます。
「モツ煮」「獣医師」「ミートステーション」といったキーワードから、
殺害された被害者二人の関連性は容易に推測できますが、ベテラン刑事は気づかない。
犯人にしてもストレートすぎる・・

しかし、著者の願うところは、おそらくミステリーという手法をとって、
現代の「食の問題」を浮き彫りにする点にあったのではないでしょうか。
モデルは、2007年に起きた「ミート・ホープ」による牛肉偽装事件。
デパートの衰退も、シャッター商店街の増加も新しい現象ではありませんが、
本書の巧いところは、実在する企業を彷彿とさせ、いかにも臨場感あるノンフィクションの
ように仕立てたこと。

「ミート・ホープ」の事件が起きた当時、私たちは、
悪徳企業による特殊な事件という捉え方をしなかったでしょうか・・

現在のデフレ下、商品の低価格競争に拍車がかかり、「ミート・ホープ」の事件が特殊なものではなく、
日常茶飯事に起きているとしたら・・

ガソリン価格の高騰をきっかけに、客足が落ちだした巨大SCは今後、
かつてのボーリング場のような廃墟と化すのでしょうか?

アウトレットでさえ、人気にかげりが見えてきてはいないでしょうか。
(以前に比べ、商品の質が粗悪になっていませんか?)

「厳選・手こね100%ビーフハンバーグ」の中身は、老廃牛のクズ肉と大量の食品添加物。

安価なステーキは様々なクズ肉を食品用接着剤で合わせたもの。

注文すれば、サッと出て来る居酒屋チェーンのツマミ。

複数の食品添加物を混ぜ合わせた際の人体への毒性は不明・・

(文中より)「半額セールをやると飛びつき、列を作るようなバカがたくさんいる。
       こんな連中に味なんか分かるわけがない!」

この本を読んだら、コンビニやスーパーの加工食品には手が出せなくなりますね・・

最後には意外なドンデンも用意されています。

それにしても、本の帯にある平成版「砂の器」は誇大広告です。
何を言わんとするかは推測できますが、
オックスマート父子の出自や境遇はまったく描かれておりません。



参考:「ミート・ホープ事件」 社員は北海道新聞とNHKに内部告発をしましたが黙殺されました。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%97

(m)

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